2010年、モンゴルの輸出額は29億ドルに達し、モンゴルの輸出の8割以上を中国が占めるようになった(同年の中国からの輸入額は32億ドル)。2009年の銅と石炭の輸出は100%が中国に振り向けられた、とも言われている。
また、2010年末時点での主要国の対モンゴル投資累計額は、中国が24.7億ドルで断トツであり、カナダの4億、オランダの2億9000万ドル、韓国の2億6000万ドルを大きく引き離している。
モンゴルにおける主要国資本の企業数を見ても、2010年はなんと中国が5303社、それに韓国の1973社、ロシアの769社、日本の451社が続いているという現状である(モンゴル大使館資料より)。
しかし、こうした状況をモンゴル国民は決して歓迎していない。「中国のブラックゴールドラッシュ」と呼ばれる急激な進出に、モンゴルでは空前の反中ムードが高まっている。
産業法規を無視するような「やりたい放題」の中国資本、後を絶たない不法入国、衛生観念の欠落、地元女性をほしいままにする素行の悪さ・・・。「それは日々の新聞の見出しになるほどよ」とマギーは言う。
南北を中国とロシアという2大国にサンドイッチされた、モンゴルの地政学的な恐怖に加え、「清朝までは中国の領土だった」という歴史的な反感、さらに、ぞくぞくとなだれ込んでくる中国人に職を奪われるのではないかという不安――。こうした脅威にさらされ、最近のモンゴル人の感情は決して穏やかではない。
中国との国境沿いで高まる危機感
中国との国境沿いの街にも変化が見られる。中国との交易・物流拠点が多数でき、急速な都市化が進んでいる。しかしマギーは「国境沿い」の変化に大きな不安を感じるのだという。
「国境付近では、土地まで不法に占拠されていると言われているの」
「中国国内に住む場所がなくなった中国人が国境を越えてどんどんモンゴルに侵入」・・・、そんなことがあり得るのかとも思うが、中国では確かに「土地資源の不足」が顕在化している。
中国の資料によれば、中国の1人当たりの土地面積は0.74ヘクタール。ロシアの11.4ヘクタールやカナダの30.5ヘクタール、アメリカの3.3ヘクタールに比べても、かなり低い数字であることが分かる。
他方、中国語のサイトをクリックすれば、「忘れられない中国の国土、それはモンゴル」「モンゴルはなぜ中国から分裂したのか」などと、“愛国の士”たちが清朝に歴史をさかのぼり、気炎を上げる様子が伝わってくる。
同時に、中国国内では不動産が高騰して一般市民が住宅を買えなくなったことを背景に、「モンゴルのパオにでも住むしかない」などのブラックジョークも飛び出すようになった。
打つ手はないのかとマギーに尋ねると、「モンゴルの人口は300万人にも満たない。この広い土地で、とても国境沿いなどを管理する余裕なんてないわよ」とのこと。もはや人間の数からしても、対抗する手立てはないようだ。
別れ際、マギーは自分のお腹を指さしてこう言った。「私たちの中国に対する感情は、母親のお腹にいる頃から言い含められているのよ」。中国への恨みや嫌悪感は骨の髄までしみ込んでいるようだ。
モンゴルは「脱亜入欧」を目指す?
さて、2011年10月、モンゴルのエルベクドルジ大統領はBBCのインタビューを受け、資源の輸出先を「中国1国だけに依存する状態は望んでいない」と回答した。国境を接する国ではあるが、中国への依存度を高めることに大きな警戒を抱いていることが分かる。
中国による「ブラックゴールドラッシュ」を避けんがために、モンゴルは外交戦略を大きく転換させた。
軸となるのが「第3の隣国政策」。中国やロシアに傾斜せず、米日韓、そして欧州との積極外交に乗り出そうというものだ。実際に10月28日、モンゴルは欧州安全保障協力機構(OSCE)への加盟申請を正式に提出している。中国紙は「モンゴルの脱亜入欧」と書いた。
中国に近接するアジアの国々は、一様に中国問題に頭を痛めている。特に国境を接する各国はこれまでの歴史の中で育まれた「近親憎悪」の感情を抱えつつ、難題を克服するための必死の舵取りを迫られている。